狭心症

冠動脈の血流不足(心筋虚血)の際に、胸痛、胸部圧迫感、息切れなどの症状が出現する場合があり、これを狭心症(きょうしんしょう)と呼びます。

症状

狭心症の症状は、他にも、左腕の痺れ、左側の奥歯の痛みなどとも表現され、注意が必要です。心電図などで血流不足を認めるに関わらず、はっきりとした症状がない場合もあり、無症候性心筋虚血(むしょうこうせいしんきんきょけつ)を呼ばれます。また、これらの心筋虚血が遷延した場合、心筋細胞が破壊されてしまう(心筋壊死)こともあり、これが心筋梗塞(しんきんこうそく)です。

狭心症の症状には、いくつかのパターンがあります。

狭心症症状の持続時間は通常3-10分くらいです。例えば、持続的に半日間、胸部症状が続いたとしましょう。この胸部症状の原因が心臓なら、心電図変化、採血の異常値を示すはずです。逆に言えば半日続いた胸部症状のあと、これらに異常がなければ心筋虚血は否定的です。

駅の階段、坂道を上ったときに症状が出現しやすく、この場合2-3分の安静にて症状は軽減します。寒い日の朝に出現する傾向があります。同じ労作でも夕方には症状が出ない、一度症状が出たあとには出にくいこともあります。

狭心症の症状は、前述の胸痛、胸部圧迫感などのほかにも、息切れ、左腕の痺れ、左歯ぐきの違和感などがあり、注意が必要です。

ニトログリセリンの舌下は狭心症の症状軽減に有効です。狭心症と診断されている患者さんは我慢せず舌下しましょう。1日2-3回くらいであれば効きが悪くなることはありません。狭心症かどうか診断に躊躇する場合、症状のある際にニトログリセリンを頓用(必要なときにのみ使用すること)にて舌下していただくこともあります。もしニトログリセリンが有効であれば狭心症ということになります。初めて舌下する場合が多く、“爆弾“を連想し、舌下に躊躇される方がおられますが、医師からよく説明を聞かれたうえで、試してください。

上記の症状を正確に医師に伝えることで狭心症の診断はほぼ可能です。受診の際には症状のポイントをメモされることをお勧めします。

冠動脈のれん縮・けいれん(冠れん縮性狭心症)

ひとの血管は生き物のようで、リラックスしているときもあれば緊張して収縮気味のときもあります。動脈硬化性のプラークの有無にかかわらず、動脈壁の平滑筋が収縮すること で、冠動脈が一時的に狭くなることがあります。これを冠動脈のれん縮といいます。冠動脈スパスム、あるいは冠動脈のけいれんともいいます。普段は正常な血流であるのに、ある時突然狭くなるため、狭心症発作を繰り返したり、重症例では心筋梗塞になります。さらには突然死の原因にもなりますから、注意が必要です。冠れん縮性狭心症では、安静時胸痛を認めることも多く、典型例では“朝方5時頃胸痛で目が覚める”こともあります。その他、デスクワーク中、飲酒・喫煙時などさまざまです。日本人に多いと言われています。冠動脈のれん縮を予防するカルシウム拮抗剤(きっこうざい)を中心とする薬物治療が有効です。

原因

心臓の筋肉に酸素を運ぶ動脈は冠動脈(かんどうみゃく)と呼ばれます。冠動脈は心臓の表面を走ります。右側を走行する血管は右冠動脈と呼ばれます。左側は途中まで1本(左主幹部)ですが、途中から前を走る血管(左前下行枝)と後ろに回る血管(左回旋枝)に分かれます。

冠動脈の動脈硬化

これらの冠動脈の太さは1.5mmから、せいぜい2.5mm程度です。年齢とともに動脈硬化(どうみゃくこうか)は進み、動脈壁が肥厚(厚くなること)してきます。内側に向かって肥厚しますので、徐々に血液の流れる内腔(ないくう、血管内の空間)が狭くなってきます(アテローム硬化 )。当面、安静時には何とか血流が保てますが、ある限界を超えると、労作時に血流不足が生じるようになります。この血流不足は心筋虚血(しんきんきょけつ)と呼ばれます。さらに内腔が狭くなると、安静時にも心筋虚血が出るようになります。こうなると重症で、はやく治療をする必要があります。

検査・診断

問診に加え、心電図、胸部レントゲン、心エコー(超音波検査)、ホルター心電図、採血などの検査を行います。心筋虚血が重症な場合、これらの検査で診断がつく場合もありますが、通常これらの検査は、検査時に明らかな心筋虚血がない場合には陽性にでません。そこで、より正確に診断するため、当センターでは、冠動脈CTあるいは心筋シンチグラムを行います。(一般に、心電図をつけてベルトの上を走るトレッドミル運動負荷試験を行うこともありますが、検査の精度がさほど高いとはいえず、当センターでは冠動脈CTあるいは心筋シンチグラムを行います。)

冠動脈CTは、造影剤を40ml程度使用し、64列マルチスライスCTにて心臓を7秒間ほど撮像(さつぞう)するのみで、以前はカテーテル検査でしかわからなかった冠動脈の狭窄あるいは閉塞がわかります。冠動脈CTの特異度(疾患のない方を、疾患なしと診断する率)は98%と高率であり、CTで大丈夫であれば、まず大丈夫ともいえます。入院は必要なく、外来で出来る検査です。胸部症状があり心臓が心配な方、糖尿病・高脂血症・高血圧・喫煙・家族歴などの虚血性心疾患の危険因子が多い方は、ぜひ医師に御相談ください。

心筋シンチグラムは特殊な薬をつかい、心臓の血流、心筋の状態を見る検査です。前述のトレッドミル運動負荷試験と同じようにベルトの上を走った後に、特殊な薬を注射して撮影することもありますが、安静の状態で薬を注射し撮影することもあります。冠動脈の狭窄、閉塞といった解剖学的評価ではなく、心臓の血流をみる生理学的評価であり、冠動脈CTと相補し重要な検査法です。

カテーテル検査、冠動脈造影

診断を確定し、治療方針を決めるための重要な検査です。

前述の検査にて冠動脈に病的な狭窄、閉塞が疑われた場合、カテーテルによる冠動脈造影を行います。診断を確定し、治療方針を決めるための重要な検査です。カテーテル検査には、この他に静脈系を検査する右心カテーテル、左心室の動きを見る左心室造影、大動脈の形態・大動脈弁の逆流を見る大動脈造影などがあります。心筋症の確定診断のための心筋生検、不整脈の電気生理検査も含みます。

よく、“カテーテル検査、冠動脈造影は おっかない”と言われますが、確かに 合併症の可能性がないとはいえない検査です。

しかしながら、病気を放置しておくリスクも考える必要があります。カテーテル検査をしないで放置した場合のリスクと、カテーテル検査自体のリスクを比較し、前者が大となればやはりカテーテル検査の適応です。我々は常にこのことを念頭に置いて患者さんにお話するようにしています。日本でカテーテル検査を受ける患者さんは年間約100万人と推定され、毎日3,500-4,000人の患者さんがこの検査を受けていることになります。

冠動脈造影、カテーテル検査は、繰り返しになりますが、診断を確定し、治療方針を決めるための重要な検査ですので、狭窄の程度が中等度で心筋虚血を引き起こすかどうか微妙な場合には、プレッシャーワイヤーを用いて、狭窄の遠位部と近位部での血圧比を算出し、心筋虚血を引き起こすか判断することもあります。現在当センターではカテーテル検査は日帰り検査も実施しておりますが、治療の必要がある場合には、患者様からの同意を得て引き続き入院して施行しております。

治療

狭心症、心筋梗塞といった虚血性心疾患の治療には、薬物治療、カテーテル治療、外科治療(バイパス術)の3本の柱

薬物治療

虚血性心疾患治療に薬物治療は必須です。後述のカテーテル治療、バイパス術をした場合でも、薬を全くのまなくなることはまれです。薬物治療として、血液さらさらの薬、心臓の血管を広げる薬、心臓の仕事量を減らす薬などいくつかの種類があります。

カテーテル治療(風船、ステント治療)

動脈硬化の進行した冠動脈狭窄・閉塞は、薬物治療のみでは根本的に治療することは難しいといえます。そこでバイパス術あるいはカテーテル治療が必要になります。

カテーテル治療をすることで、狭心症の症状が消失あるいは軽減します。それまでゆっくり上っていた階段を休まず駆け上がることが可能になります。また、明らかな症状がない無症候性心筋虚血の患者さんであってもカテーテル治療を行うことがあります。この場合は生命予後の改善(長生きすること)を目的とします。心筋虚血が遷延し心機能が低下すると、心機能が正常のひとと比べて長生きできないと言われています。

通常右手の手首の動脈(とう骨動脈)からカテーテルを進め、狭窄部位で風船を拡張します。風船のみでは十分に広がらないことが多いうえ、半年後の再狭窄(血管壁が増殖し再び狭くなること)が40-50%に起こるため、通常はステントを留置します。ステントには通常のステントと、徐々に血管壁に作用する薬剤がステント表面にぬってある薬物溶出性ステントとがあります。後者は2004年から日本でも使えるようになり、それまで20-30%で認めていたステントの再狭窄率を10%以下としました。

手首の動脈からの治療が出来ない場合は、足の付け根の動脈からカテーテルを進めます。手首に比べて術後の安静時間が長くなりますが、最近では血管壁にコラーゲンを付着させる止血法、あるいは血管に糸をかける止血法があり、安静時間の短縮につながっており、以前のような長時間の安静は必要なくなりました。

■風船治療

カイドワイヤーと呼ばれる針金に沿って風船を進め、狭い場所を風船で膨らませます。 アテロームが外側に向かって押され、血液の通り道が広くなります。

■ステント治療

風船を膨らませた後に、いったん血管は広がりますが、風船をしぼめると再び狭くなります。 そこでステントと呼ばれる管を入れ血管の通り道が狭くならないようにします。

■薬剤ステント

今までのステントは、ステントの中が狭くなりやすいものでしたが、薬剤ステント(DES)はステントから薬が出てステントの中が狭くなりにくくなっています。

※治療後の注意

ステント治療をしたからといって、完全に治ってしまうわけではありません。血液が固まるのを防ぐ効果があるアスピリン(バファリン)は通常一生、同様の効果があるパナルジンは6-9ヶ月間内服する必要があります。ステントを置いた直後は、金属がメッシュ状に血管壁でキラキラ光っている状態です。もしこの時期にこの2種の薬の内服を中止すると、血栓という血の塊がステント内に急激に生じ、急性心筋梗塞を引き起こす危険性があります。。抜歯、他科での手術などの際は必ず循環器科の主治医に御相談ください。

また、2次予防も重要です。糖尿病、高脂血症、高血圧などの虚血性心疾患危険因子の治療を積極的に行うことで、将来の心筋梗塞などの発生率を減らすことが出来ます。禁煙も重要です。

外科的治療(バイパス手術)

狭窄・閉塞している部位をジャンプして比較的性状の良い場所に新しい血管(左右内胸動脈や足の静脈など)をつなぎ、血流が少なくなっていた心筋に血液を流す手術です。道路が工事中で先に進みたいときに迂回路ができるのと同じです。また高速道路のバイパスをイメージすると分かりやすいと思います。

現在の手術法には2つあります。

ひとつは人工心肺を使用して心臓を止め心停止下に行う方法、もうひとつは人工心肺を使用せず心臓が動いたまま行う方法です。

On-pump CABG :人工心肺使用心停止下手術

■冠動脈パイパス術 オンポンプ

心臓を止めて人工心肺装置という機械で全身の循環(体・肺)を維持します。その間にバイパスを完成します。 Off-pump CABG  :心拍動下手術

■冠動脈パイパス術 オフポンプ

人工心肺などの補助手段を使わず、心臓が動いたままバイパスを完成させます。 この方法は体が人工心肺を使用するという非生理的な状況に比べ、体全身への負担が少なく、 ひいては術後の回復も早く、合併症も少ないという利点があります。

しかし誰もがこの方法を受けられるわけではありません。心臓の働きが低下し過ぎている場合は心臓の負担が大きくなるので、この方法は用いられない場合もあります。冠動脈の性状、冠動脈の解剖学的な位置、手術中の不整脈や血圧低下などでやむなくOn-pump bypassに切り替えることもあります。最も侵襲の少ない方法を選択し、いわゆるその患者様にあったいわゆるオーダーメイド治療を行います。

【バイパスに使用される血管(グラフト)について】

主に使用されるグラフトは次の4つです。

内胸動脈(胸骨の裏側にある動脈で左右1本ずつあります)
大伏在静脈(両足の内側の静脈)
橈骨動脈(手首から肘の動脈)
右胃大網動脈(胃の動脈) 

■Vaso View バソビュー(内視鏡下グラフト採取デバイス)

利点

  • 少切開のため傷が小さい。
  • 傷が小さいため早期の創部の治癒、感染のリスク低減。
  • 美容面で有効 当院ではバイパスグラフト採取の際に、内視鏡下グラフト採取デバイス(VASOVIEWW®)を用いることもできます。 少切開のため、低侵襲で早期の創部治療、感染の危険が少なく、美容の面でも傷が目立つことが少ないです。(1~3cmの傷を2か所)

左右の内胸動脈と胃の動脈

心臓を体の正面から見ています。 上の部分の白いところが大動脈で、それを縦に横切っているのがバイパスをした左右の内胸動脈です。 下のくねくねした白いものがバイパスされた胃の動脈です。 画像は64列CTで撮影したものです。

胃の動脈

同じ心臓を今度はほぼ真下から見ています。くねくねした白いものがパイパスされた胃の動脈で茶色い部分の細い物が冠動脈です。

どのグラフトを使用するかはバイパスされる冠動脈・グラフトの性状、バイパス本数、年齢、患者様の全身状態などを考慮し、最適なグラフトを使用します。